院内感染対策に重要な環境整備。
都内病院の協力を得てまとめた、院内のチェックポイントがひと目でわかるコーナーです。

取材協力:東京慈恵会医科大学

1.ナースステーションの手洗場

チェック項目 根拠
手洗い場には、液体石鹸が設置されている。写真1 固形石鹸は表面が汚染されている可能性があります。
液体石鹸は詰め替えをしていない。 詰め替え容器がきちんと洗浄し乾燥が図れていないと、液体石鹸が水場を好むグラム陰性桿菌(緑膿菌やアシネトバクターなど)に汚染されるリスクがあります。
正しい手洗い手順のポスターを掲示している。写真2 正しい手順で手洗いが実施できる環境を整備する必要があります。
病院によっては、流水で15秒以上洗うために、小さい時計を設置しているところもあるようです。
ペーパーホルダーは上から下に引き抜けるホルダーを使用している。写真3 濡れた手でペーパーを引き出す際に、ペーパーが汚染されない。
手洗い場周囲にゴミ箱を設置している。写真4 使用したペーパーはすぐに廃棄する必要があります。
病院の手洗い設備はオーバーフロー穴がないタイプのシンクが望ましい。 オーバーフロー穴は清掃できない構造であり、水場を好むグラム陰性桿菌で汚染されているリスクが高くなります。

写真5:オーバーフロー穴なし

写真6:オーバーフロー穴あり

手洗い場は清潔で乾燥された状態を保持している。 濡れたままの状態であると、水場を好むグラム陰性桿菌が繁殖する温床となります。
スクレイパーを使用すると、簡単に手洗い場の水切りができます。高いものではありませんので、導入を検討してみてはいかがでしょうか。写真7
水栓は自動タイプが望ましい。写真8 自動タイプでないと、手洗い後に水栓に触れることで手が汚染されてしまいます。自動タイプでない場合、肘やペーパーで蛇口を閉める必要があります。
水栓の取り換えは費用の問題がありますので、施設・設備の更新時に検討されてはいかがでしょうか。

2.手指消毒薬

チェック項目 根拠
手指消毒薬は開封日を記載している。写真1 開封日を明記することで、使用期限を遵守するとともに、残量をチェックすることで手指消毒薬を使用しているかの確認にもなります。使用期限は各部署に任せきりにするよりも、各月の最初のラウンド時にチェックするなど、手順と担当者を決めて確認できるような体制を整えるのも有効です。
PCを操作した後、手指消毒を実施して患者ケアを実施できるよう、PCワゴンに手指消毒薬を設置している。写真2 医療現場にあるPCは多くの一過性菌で汚染されているとの報告があります。
病室入口に手指消毒薬を設置する。写真3 医療従事者、患者、面会者ともに、入退室時に手指消毒を実施する必要があります。

3.清潔物品管理庫

チェック項目 根拠
衛生材料などの物品は、扉付きの棚に保管している。写真1 汚染を受けないように保管する必要があります。
扉がない棚で保管しなくてはいけない状況では、床上30cm以上で保管をします。
棚の上には物品が置かれていない。写真2 棚の上は埃がかぶりやすいため、物品の配置場所としては適しません。

4.ナースステーション手洗い場(スポンジ)

チェック項目 根拠
水場で使用するスポンジは乾燥状態で保管され、定期的に交換している。 スポンジが濡れたままの状態ですと水場を好むグラム陰性桿菌が繁殖する温床となります。乾燥状態で保管できるよう工夫する必要があります。

5.感染症表示用のアイコン

チェック項目 根拠
感染対策が必要な患者が分かるよう、表示する方法が決まっている。 感染対策が必要な患者さんを把握し、適切な対応ができるようにする必要があります。
当院では、「サージカルマスク」「ビニールエプロン」「手袋」などの必要な防護用具について、マグネット式のアイコンを作成し、スタッフ間で情報共有しています。

6. 病室入口の手洗い場(手袋・エプロン・マスク)

チェック項目 根拠
防護用具が使用しやすいよう設置されている。 必要な場面で使用できるよう整備がされていないと、防護用具を使用されない状況となることが考えられます。
当院では、病室入口に手袋、ビニールエプロン、サージカルマスクを設置しています。

7.自動蓄尿機

※ 特定の商品名については表示を修正してあります

チェック項目 根拠
自動蓄尿器が使用されている場合、必要最低限の使用となっている。 自動蓄尿器は複数の患者の尿が交差する機械であり、交差感染の危険性が高いと考えられます。そのことから、必要最低限の使用とし、患者が触れるタッチパネルは定期的に清掃を実施する必要があります。
当院では、自動蓄尿器については、撤去していく予定としています。
自動蓄尿器のタッチパネルは定期的に清掃が実施されている。
自動蓄尿器を使用した後、患者へ手指衛生を実施するように教育を実施している。

8.尿器、測尿カップの管理

チェック項目 根拠
尿器・測尿カップについては、使用毎に消毒を実施している。写真1 使用毎に消毒を実施せずに尿器を並べて保管していると、尿器を介した交差感染の原因となります。
ベッドパンウォッシャーを用いて使用毎に熱水消毒を実施しています。写真2

9.面会者への案内

チェック項目 根拠
面会者へも感染対策について注意喚起を行っている。 面会者が院内へ感染症を持ち込む可能性があります。
入院病棟の面会者受付には、案内表示とともに手指消毒薬とその使用方法のご案内も一緒においてあります。

10.廊下の掲示物(手洗いと咳エチケット)

チェック項目 根拠
職員、患者、面会者へ必要な感染対策を提示している。 病院に出入りする全ての人が必要な感染対策について理解する必要があります。
廊下に手洗いの励行と咳エチケットを呼びかける掲示をしています。

11. ICU内の手洗い場

チェック項目 根拠
ICUなどは重症患者や易感染状態の患者が収容される部署であり、水場を好むグラム陰性桿菌などで汚染しにくい手洗い環境が整備されている。 ICUの手洗い場は特に清潔を確保するために様々な工夫が凝らされています。

  • 水はねしにくい深いシンクで、オーバーフロー穴がないものを使用しています。写真1
  • グースネック型水栓を使用し、水滴が水栓につかないようになっています。写真2
  • ペーパータオルは下向きに引き出せるようになっています。写真3
  • 液体せっけんが設置されています。写真4
  • 手洗い手順のポスターが貼ってあります。写真5

12. ICUベッドサイド

チェック項目 根拠
手指衛生材料・防護用具を設置し、感染対策が実践しやすい環境となっている。 ICUなどはオープンスペースのため、交差感染がしやすい環境にあります。ベッド毎(患者毎)に感染対策がしっかり行える環境整備が必要となります。

  • 手指消毒剤写真1
  • 防護用具写真2
  • 手指衛生ポスター写真3

13. ケアバンドル拡大図

ケアバンドルとは、RCT(ランダム化比較試験)で有用性が認められた複数の手法を、単独ではなく束ねて(Bundle)行うことで、最大限の効果を得るものです。

ここでは、おむつ交換のケアバンドルとして以下の手順が示されています。

  1. 手指衛生
  2. ビニールエプロン着用
  3. 手袋着用
  4. おむつ交換
  5. 汚染されたおむつをビニール袋へ密封
  6. (新しいおむつ・寝衣を整える前に)手袋交換
  7. 新しいおむつ・寝衣を整える
  8. 手袋→エプロンを外す
  9. 手指衛生