本事業では、平成25年度より病院訪問支援および病院訪問見学を行っております。このページでは、現場レベルでの院内感染対策の実践をご紹介します。
病院訪問支援
病院訪問支援事業では、感染管理認定看護師が指導員として病棟ラウンドを行ない、改善策について助言を行いました。ここでは、ラウンド時の助言内容のうち、多くの病院で対応に苦慮されているであろう点について、写真付きで解説しています。
院内ラウンド編
- 日時
- 平成25年7月25日(木)
午後1時45分~3時15分 - 場所
- 都内病院(一般病棟のみ)
- ガーグルベースンの浸漬消毒
ガーグルベースンの浸漬消毒
実施日:平成25年7月25日(木)
指導員コメント
- ガーグルベースン全体が浸漬液に浸かっていることは評価できます。ただし、ガーグルベースン同士が重なっていると、隙間に消毒液が充分に行き渡らず、効果が発揮できません。全てが消毒液に接触するように、間隔をあけるように工夫して下さい。
- 包交車
包交車
実施日:平成25年7月25日(木)
指導員コメント
- 包交車の上は清潔面としての扱いが必要です。使用前後での清拭がしやすいように、上面にはものを置かないようにしましょう。また衛生材料と衛生材料以外のものを一緒に収容するのも避けましょう。
- 台面に滅菌セッシが立ててありますが、台面上では埃や水濡れなど汚染リスクが高く、いつ滅菌状態が破たんしているか不明確です。また縦置きにすると袋の下部が破れやすくなります。袋が破れると「滅菌済み」として扱えませんので、引き出しの中などに横置きで保管しましょう。
- 調製台の上
調製台の上
実施日:平成25年7月25日(木)
指導員コメント
- 針捨てボックスからシリンジがあふれており、蓋が閉まらなくなっています。こまめに捨てるか、廃棄容器の規格を検討してはいかがでしょうか?また調製台の上は清潔エリアです。採血後の針などの汚染物は入れず、調製時に使用した鋭利物のみを廃棄するようにしましょう。
- 調製前には必ず台上を清拭する必要がありますので、調製台の上または近くに清拭クロスを用意しておくとよいでしょう。
- 処置車のタオル
処置車のタオル
実施日:平成25年7月25日(木)
指導員コメント
- 下の段においてあるのは、手作りのクーリングカバーとのことです。使用前・後のものが触れないように分けて置くようにして下さい。また、使用前のものは埃がつくのを防ぐため、下の段に置かないようにしましょう。できれば、リネン保管棚に収納し、使用する分だけ持ち運ぶほうが清潔でしょう。
- 浴室脱衣所
浴室脱衣所
実施日:平成25年7月25日(木)
指導員コメント
- 脱衣所にタオルが干してありますが、充分に乾燥できているでしょうか。しっかりと乾燥させないと、菌が繁殖する原因となりますので、確実に乾燥できるように工夫しましょう。
- 浴室の窓が開放されていました。浴室の換気口率が悪いために開放せざるを得ないかと思いますが、まずは浴室内及び脱衣所の換気口の清掃を行い、施設・設備担当の方と換気レベルを再チェックするのがよいと思います。
病院訪問見学
院内感染防止対策加算1を算定している病院をモデル病院として、実際の取り組み例を見学することで、自院での感染対策に役立てていただくことを目的に病院訪問見学を行いました。このページではその中で紹介された具体的な取り組みを掲載しています。中小規模病院でも取り入れる内容を中心に掲載しておりますので、多くの病院の院内感染対策担当者の方々のご参考になれば幸いです。
院内ラウンド編
- 日時
- 平成26年11月28日(金)
- 場所
- 都内病院(一般病棟のみ)
- 汚物室(洗い場)
汚物室(洗い場)
実施日:平成26年11月28日(金)
各病棟に汚物室があり、便器・尿器・吸引器等はここで洗うようにしています。
すべての汚物室にはベッドパンウォッシャーがあり、尿器はそれで洗っています。
便・尿・痰の検体もここで保管しています。
クリーンキーパーは10倍液を洗いもの洗剤に、50倍液を環境清掃用にと1洗剤を2つの用途で使用しています。
薬杯は使い捨てにしています。
シンクの清掃は業者に委託しており、洗いものはすべて看護補助者にお願いしています。洗いもののタイミングは、朝の清潔ケア終了後に一度行い、その後は特にタイミングを決めず、洗い物があることに気づいた人が洗っています。清掃の際に使用する洗剤、清掃方法等は委託仕様書で細かく取り決めています。汚物室のドア(室内側)には擦式消毒薬を配置しています。
ホルダーは消毒薬のメーカーから提供してもらったものを使っています。消毒薬を購入すると、ホルダーは無料で提供してもらえると思います。ホルダーは、あえて目立つデザインのものを使用し、注意喚起を図っています。
設置個所もドアノブの近くにし、使用を促すようにしています。 - 感染性廃棄物容器
感染性廃棄物容器
実施日:平成26年11月28日(金)
プラスチック容器には、針やガラスなど貫通性の廃棄物、段ボール容器には、オムツやエプロンを廃棄するように使い分けています。容器の価格は、プラスチックの方が3倍程度高いので、きちんと分別することで余計なコストをかけないようにしています。
オムツ交換については手順を定めており、使用後のオムツや手袋とエプロン全てをベッドサイドでビニール袋にまとめてからベッド周囲のカーテンを開けるようにしています。オムツは排泄物の有無に関わらず全てダンボール感染性廃棄容器に捨てています。 - 排気装置つき個室
排気装置つき個室
実施日:平成26年11月28日(金)
呼吸器内科・循環器内科の個室は、室内の空気を換気扇で室外に排気する設備となっています。陰圧室に準じた仕様であり、空気感染対策が必要な患者さんはこの部屋を利用してもらっています。換気効率も計算してあり、外部環境への影響を考え、HEPAフィルターを通して排気しています。当院は2種感染症患者には対応できませんが、疑い患者の発生時など、診断がつくまでこの部屋を使ってもらっています。
- 病室入口
病室入口
実施日:平成26年11月28日(金)
経路別感染対策が必要な患者さんが入院している病室では、入り口にケア時に必要なPPEがイラストで示されており、マスクの脱着については、手順も示してあります。
- 手指消毒薬の使用量
手指消毒薬の使用量
実施日:平成26年11月28日(金)
病室前の手指消毒薬はホルダーにセットしてあります。ホルダーはメーカーから提供されたものです。月に1回、使用量を計り、医事課に在院患者数を聞いて患者1人当たり使用量として数字を出しています。
使用量は各部署の感染対策委員が計測し、ICNに報告しています。 - ノロセット
ノロセット
実施日:平成26年11月28日(金)
吐物処理セットには、消毒薬(泡ハイター)、ペーパータオルと、ビニール袋に入ったPPEが入っています。PPEはアイソレーションガウン(吐物の拡散範囲が広いとき)、ビニールエプロン、グローブ、ビニール袋(大・小)、シールド付きマスクが入っています。ビニール袋(大)は廃棄物用。ビニール袋(小)はシューズカバーにするため、足首で留められるよう、輪ゴム2本も一緒に入っています。
内容物の補充は、基本的には使用したスタッフが使用後ただちに補充する決まりとしていますが、多忙な時はナースエイドに依頼することもあります。
泡ハイターは飛び散らないので、必要な範囲にのみ散布することが出来ます。また、いわゆる「湿布」をしなくても、散布後すぐに拭き取ることが出来ること、既製品のため、濃度管理が不要(=使う直前に希釈する必要がない)な点も利点です。
ノロセットを作ることで、患者さんの嘔吐の際に必要なものを探すことがなくなり、迅速に対応できるようになりました。コストをかけずにできる工夫です。 - ミキシング台(点滴調製台)
ミキシング台(点滴調製台)
実施日:平成26年11月28日(金)
ミキシング台はゾーニングして、手指消毒薬・針捨てボックスが決まった場所に置かれています。ミキシング台の柱にホルダーを取り付け、そこに手袋をおいています。
ミキシング台の上に置いていいものは、処置箋・注射箋とトレーだけとしています。トレーは1患者1トレーと決めており、同室の患者でも複数患者分を一つのトレーに入れることはありません。
ICTからのお願いとして、ミキシングの際は必ず手指消毒して、手袋をしてミキシングするようにお願いしています。ベストプラクティスで最初に必要な物品をすべて準備すること、必ず手袋をすること、手袋をした後は調製するだけ(調製以外のことはしない)を徹底しています。
CV関連のものは、平日は薬剤科がミキシングをしていますが、休日は病棟でミキシングを行っています。 - 手指衛生モニタリング
手指衛生モニタリング
実施日:平成26年11月28日(金)
ICNおよびリンクナースが医療スタッフの手指衛生の順守状況についてモニタリングを行い、2か月に1度、報告書を出しています。モニタリング項目は、WHOの「手指衛生5つのタイミング」に準拠して項目を作りました。
報告書は、2か月前と比べて順守状況が良くなった/悪くなった等、コメントを付けています。各部署ごとに報告書を作成し、フィードバックしています。《参考資料:WHO「手指衛生5つのタイミング」》
- 患者と接触する前
- 清潔・無菌操作の前
- 体液に曝露された可能性のあった後
- 患者に接触した後(退室時含む)
- 患者の周辺物品に触れた後
出典:日本環境感染学会
手指消毒の遵守状況の確認は、消毒剤使用量を計り、病棟ごとに比較するなども行っていますが、やはり直接モニタリングを行うことが一番効果的です。モニタリングはICNだけが行うと、「見られているときだけ手指消毒」する人もいるため、リンクナースにもお願いしています。
フィードバックにより、スタッフの意識向上にもつながっており、携帯用の手指消毒薬を導入してほしいという要望が出るようになりました(現在、病棟の患者ケアの際はワゴンについている手指消毒薬を使う手順となっています。)《参考資料》
参考として、見学先病院で使用している「手指衛生チェックシート」を示します。チェックの仕方も記載してありますので、ご参考になれば幸いです。《参考資料》
参考として、見学先病院で使用している「手指衛生チェックシート」を示します。チェックの仕方も記載してありますので、ご参考になれば幸いです。
- 日時
- 平成25年11月27日(水)
- 場所
- 都内病院(一般病棟のみ)
実際に病棟を見学しながら、ラウンド時の視点などを教えていただきました。
ここでは、院内の写真を基に、当日の説明内容や工夫されている点などをご紹介します。
- サージカルマスクの着脱についての注意喚起ポスター
サージカルマスクの着脱についての注意喚起ポスター
実施日:平成25年7月27日(水)
指導員コメント
- 既存の感染対策ネットワークのホームページ上に掲載している資料等から引用して、サージカルマスクの使用目的や正しい着脱方法等をイラストや写真をポスターにして掲示しています。誤った使用方法(鼻が出てマスク・あごマスク・腕マスクなど)も記載し、正しい着用についての理解を促しています。
- 一方で、院内研修の際に正しい知識の普及に努めています。
- 研修ではクイズ形式で学べるよう工夫をしたり、病院長先生が個人防護具の(PPE)の着脱を実演することもあります。知識が不足していると、忙しい時にPPEの着脱が正しく出来なくなったりします。正しい知識を身につけることで、忙しい時でも正しく着脱が出来るようになります。耐性菌の水平伝播防止につながります。
- スポンジ交換と乾燥
スポンジ交換と乾燥
実施日:平成25年7月27日(水)
指導員コメント
- スポンジは交換頻度を決めて、定期的に交換をしています。スポンジは、はさむタイプの物を利用して乾燥させています。スポンジ台に置くと、スポンジに置いた部分が乾燥しにくくなります。その為、はさむタイプの物を利用して吊るしたりもしています。
- スポンジには、使用開始日と用途が書いてあります。
- 擦式アルコール製剤の使用量の確認
擦式アルコール製剤の使用量の確認
実施日:平成25年7月27日(水)
指導員コメント
- 擦式アルコール製剤の使用量を毎日、各自が勤務終了時に測定しています。個人で携帯する擦式アルコール製剤の使用量を確認しています。当院病院では擦式アルコール製剤を使用する際に、ポシェットを利用しての携帯はしていません。ポシェットを使用する際は、ポシェットの管理と運用方法(どこで誰が管理するか・交換頻度・交換したことを誰が確認するのか・感染症患者の病室に入室する際はどうするのかなど)を決めてからでないと水平伝播の原因になると考えている為です。その為、ペットボトルホルダーを使用して擦式アルコール製剤を携帯している人もいます。擦式アルコール製剤のボトルに油性マジックで線を引くとともに、確認シートに記入するようになっています。目標は、擦式アルコール製剤を一日一患者あたり24ml以上使用することです。個人の使用量を測定することで、意識付けにつながっています。最終目標は、意識付けが習慣化することにあります。言われなくても手を洗う、自然と手を洗うことが身に付くことを最終目標としています。
- ナースステーションの手洗い場
ナースステーションの手洗い場
実施日:平成25年7月27日(水)
指導員コメント
- 蛇口は自動水栓になっており、手を洗った後にハンドルに触れることがなく、清潔を保てます。
- ペーパータオルは、下に引き出すタイプのペーパーホルダーに入れて使用しています。ペーパータオルをじか置きすると、手洗い後の濡れた手のしずくがきれいなペーパータオルに落ちてしまいます。次に手洗いをした人が、そのペーパータオルで手を拭いてしまうと、手が汚染されて手洗いをした意味がなくなってしまいます。
- 洗面台には鏡がありません。鏡があると、ついつい髪や顔に触れてしまい、手洗いの意味がなくなってしまいます。人の手が感染を拡げる最も大きな原因となります。有効な手洗いが出来るよう鏡は外してあります。
- パソコン台に擦式アルコール製剤を配置
パソコン台に擦式アルコール製剤を配置
実施日:平成25年7月27日(水)
指導員コメント
- ナースステーション等に配置してあるパソコンのマウス、キーボードや手すり等は高頻度接触面(人の手がよく触れるところ)です。多くの人の手がよく触れるところは、細菌やウイルスを伝播させてしまう可能性があります。擦式アルコール製剤を常時配置しておき、手指衛生が保てる環境づくりに努めています。また、パソコンに触れる前に擦式アルコール製剤による手指消毒をするよう注意喚起のテープも貼ってあります。